あれから、どの位が経っただろう。
私は相変わらず、平凡な日常を送っている。
ただ、此処に貴方は居ない。
その事実だけが虚しくて、時々不意に涙が零れる。
みんな、忘れてしまったのだろうか。
誰も、一言も、彼の名前を口にしない。
彼の存在は、彼の此処に居た証拠は、
全て消えてしまったの?
「───・・・・ッ」
まただ。
また涙が零れてきた。
彼のことを考えるだけで、こうなってしまう。
もう、何度流しただろう。
それでも涙は枯れることなく、感情に素直に溢れ出す。
いっそのこと、全てを忘れてしまえばいい。
彼のことも 不可思議な出来事の事も 仲間のことも
そう思ったことも幾度かあった。
でも、忘れることは許されない。
『俺を忘れない限り、またお前と逢えるさ』
忘れようとするたびに思い出す、言葉。
それは彼が私に言い聞かせるような、祝詞のような、台詞。
結局、私は彼が好きだから。
忘れようとしても、自分で規制をかけてしまうんだ。
そうやって繰り返されるうちに、ホントに逢いたくなってくる。
「逢えない」・・・そう、判りきった事なのに。
逢えるはずなんか、ないのに。
彼はあの日、あの時代に残るといった。
私にとっての裏切り、憎悪でしかなかった。
今になって、後悔、なんて遅いけど。
あぁ、死に物狂いで連れてくればよかったな。
一緒に帰ろう、そう言えばよかった。
それはやっぱり、私は貴方を愛していたからなのだろうか。
気がつけば、私は裏庭に足を運んでいた。
「将臣くん・・・」
ぬぐってもぬぐっても、溢れる涙。
その場にへたり込むと、声を殺して泣く。
逢いたい。でも逢えない。
ならば、せめて。
「せめて、私が貴方を忘れないように、貴方も私を忘れないで居てくれるなら・・・」
目の前に咲く一輪の勿忘草は、静かに、そっと揺れた。
(Cyd : 私を忘れないで。それは、素敵で残酷な、祝詞)