一瞬の、不覚だった。



幸運なのは、周りに知盛殿しか居なかった事か。





「ほぅ・・・柊、貴様は女だったか・・・」



「知盛・・・・殿・・・ッ」

















先の戦で死んだ兄は、平家に仕え、その身を平家に捧げた。



私は、いつも守られて、待っているばっかりだった。





兄が死んで、両親も死んだ。



もう、誰もとやかく言うものは居ない。



守られるのは、もう厭だった。



だから───性別を偽り、平氏へと配属した。





元々剣術は女ながらに教わった身であった為



剣豪の中でもレベルは上の上であった。



どういうわけか、そこで知盛と還内府に目をつけられ、



天皇直属の部下となった。











そして今日───・・・・



雨の日が続き、体が鈍ると知盛が珍しく言い出したため



仕方なく相手をする事になった。





「(よりにもよって・・・・雨、か・・・)」





サラシは巻いているが、やはり気になるのは当然のこと。



それ以外にも、理由がある訳ではないが、気分的に雨は嫌いだった。





「どうした・・・雨は嫌いか・・・?」



「いえ・・・では、始めましょう」





何時もの様にのどをクツクツと鳴らしながら笑う知盛に



視線を向けて、剣を振りかざす。





「はあッ!!」







   キイ・・・・ンッ







「クク・・・何時もながら、柊は愉しませてくれる・・・」





銀に煌く刃と刃を交差させながら、露をはじく。



ふと、視線を逸らした時だった。





「隙あり・・・」





刃先が胸部の布を掠める。





「?!」





思わず、握っていた刀を落とす。



あらわになる素肌、切り裂かれた布。





「ほぅ・・・柊、貴様は女だったか・・・」



「知盛・・・殿・・・ッ」





思わず目を背ける。



知盛はまた、喉を鳴らしながら笑うと



柊の顎に手を当て、クイッと引く。





「・・・ッ」



「貴様、本当の名は・・・?」



「・・・・雨宮、澪」



「澪、か・・・・よく見ると、綺麗な顔立ちだ



 ・・・女にしか、見えぬな・・・・」





からかう様な口調で言う。



澪は手をぱっと払いのけ、知盛を睨む。





「ほぅ、好い眼をする・・・」



「女だと知られた以上、此処に置くわけにはいかないでしょう。



 『天皇直属部隊に女が居る』など、とんだ笑い事。



 早速、還内府殿に・・・・」





言いかけた口は、知盛の唇によって深く封じられた。





「・・・は、ぁッ・・・」



「代償はもらった」





赤面する顔を隠すように手で覆う。





「な・・・っ」



「俺は、男でも女でも構わない。



 ・・・俺を、愉しませてくれるなら、な・・・」





それだけ言うと、知盛は味を愉しむかのように唇を舐めながら、



屋敷の中へ入っていった。







「(平・・・知盛・・・・)」







一人残された澪は、水の滴る天を仰いだ。
























(Cyd : 信じるは 己を良く知る己か 己を隠すと云う汝か)