平泉に、久しぶりの雨が降り注ぐ。



雨は、好きだ。



辛い事、悲しい事



そんな、自分には要らない感情を全て



洗い流してくれる気がするから。



薄暗い雲も、重々しく響く雨音も



時折聴こえる雷の叫びも



全てが、私にとって心地よくて仕方なかった。









こんな日にこそ、何故か散歩をしたくなる。



頭がおかしいわけではない、全く。



唯々、雨と同化する様に、歩きたくなる。





「ちょっと、出かけてくるね?」



「出かけるって・・・今日は雨よ?いけないわ」



「大丈夫だよ!すぐに戻るから・・・ね?」





そう言い微笑みながら首を傾げる。



心配そうな表情を見せる朔も、こういう私には甘いのだ。



利用するようで悪いな、と思いつつも邸から抜け出した。



幸いにも八葉の皆は邸に居ないし、



好機といえば好機だった。











唯、当ても無く歩き続けた。



傘の意味も無くなるほど足は濡れていた。





丁度、街に出る道を歩いていた時だった。





「あれ・・・泰衡さん・・・?」





道の脇に聳える大きな木の下に、傘もささずに立っている泰衡を見つける。



足早に近寄ると、顔を覗き込むようにしながら声をかける。





「泰衡さん・・・どうかされたんですか?」



「これは・・・神子殿・・・?」





急な事で驚いたように目を大きく開く。





「・・・少し、雨宿りだ。神子殿の気にすることでは無いだろう」





いつもの、からかう様な、莫迦にする様な口調で言い放つ。



唯、いつもとは少し様子が変だった。





「・・・熱、ありますね?」



「!」





図星、とでも言いたげに肩を震わせる。



額に手を当てようと伸ばすも、すぐに振り解かれる。





「何の真似だ?神子殿・・・」



「熱を測ろうとしただけです。・・・まぁ、顔を見れば分かりますけどね。



 それにしても、熱があるのに何故此処に?」





少し、心配した口調で問う。



泰衡は空を見上げるように上を向くと、



降り注ぐ雨も気にせず告げる。





「雨が、好きだから」





雨音と同化する様に、小さく呟く。



だがしっかりとの耳に入り、も、あ、と声を漏らす。





「久しぶりの雨、だからな」





そう言い泰衡は顔を覆い隠すように手を当てる。





「・・・・何故、俺はお前にこんな事を話さねばならんのだ・・・」





ぶつぶつと小言を言う泰衡を見、ふふ、と噴出す。





「私も、大体同じ理由です」





笑いながら言うとは対照的に、無表情で「そうか・・・」と言い、



木に立てかけてある傘を手に取り、開く。





「・・・帰るんですか?」



「そろそろ、城の者が探し始めるだろう。



 神子殿も、帰られてはどうだ」





雨が強くなる、そう付けたし、振り向きもせずに呟く。





「あのっ」





何か言いたいわけでも無かったが、自然と口が開きハッとする。



泰衡は立ち止まったまま、何か、と発する。





「また雨が降って、もし暇だったらまた逢いましょう」



「・・・それは少々条件が厄介では?



 素直にまた逢いましょうと言えばいい」





フッ、と笑いながら言う。



つられてもくすと笑い、また逢いましょう、と言いなおす。



も傘を取り、泰衡とは反対方向に歩き出す。







「まだ俺が、生きていればな・・・」



もう朧でさえ現れることの無いの面影を思い出し、呟く。















一週間後、雨は降ることなく





鎌倉との戦が始まる───・・・・




















(Cyd : 濡れてしまったモノに朧でさえ、焼きつくことは無かった)