「また、嫌な刻に起きたね・・・」
時は、丑三つ時を廻っていた。
もう一度寝直そうかと試みるものの、
綺麗な満月の月明かりは、それを妨げるかのように煌々と輝き、
寝る事を許そうとはしなかった。
寝直すことをとうに諦め、気晴らしに外に出ることにした。
────紅に開いた 椿の花弁
雨露に打たれて 散り落ちる──・・・・・
「(歌・・・?)」
何処からともなく聞こえる、綺麗な歌声は
紛れもなくヒノエの知る人物で
何処となく何時もより、哀愁漂う声色である。
放っておけば、それは風と同化してしまいそうな位、儚い歌で───・・・
気がつけば、何も考えずにただ走っていた。
声の主を、探していた。
────潮騒の音色に 覚えるは
夏空にはせる 恋の歌───・・・・
「っ、ヒノエくん?!」
息を切らしたヒノエを見るや否や、
駆け寄り心配そうに覗き込む。
の顔を確認すると、緊張の糸が途切れたようにその場にへたり込む。
「(何やってんだ、俺・・・)」
頭を掻きながら、自分の余裕の無さに腹立った。
そんな様子を見ていたは、ふっ、と噴出した。
「なんか、いつものヒノエくんじゃないね」
「姫君は、いつもの俺のほうがお好きかい?」
「今は今で楽しいよ?そんなに慌てて、何かあった?」
「歌が、聴こえてきたからね」
「歌?・・・あぁ、今の曲?」
綺麗な曲でしょ?と首を傾げてヒノエの隣に座りなおすと、
すぅ、と息を吸い込んで歌いだす。
──── 紅に開いた 椿の花弁
雨露に打たれて 散り落ちる
潮騒の音色に 覚えるは
夏空にはせる 恋の歌
君に想うは 夢幻の儚さ ───・・・・
「コレね、将臣くんと譲くんのおばあちゃんが歌っていたんだー」
楽しそうに話すを横目に、
歌を歌い重ねる度に「」という存在が消えていくような気がした。
「?!」
「が消えてしまわないように、少しだけ、こうさせて・・・」
不安な心が落ち着くまで、君を抱きしめさせて。
「莫迦だなぁ・・・。消えるなんて、そんな事、あるわけないのに・・・」
辺りは月明かりが燈るばかりで、
一向に朝焼けが支配する予感は無かったけれど。
「・・・カッコ悪いね、今の俺は」
「まぁ、こんな所でカッコ付けられても困るけどね。
たまには、息抜きしないと疲れるだろうしね」
君の意外な一面を見せてくれて、ありがとうとでも言おうか
(Cyd : それは、私だけの特権、てことで良いのかな)